(特別企画コラム) 根と微生物の関係
はじめに
作物は、「根」が健全なら健康に生育します。その「根」は、「微生物」、つまり「菌」の働きによって左右されています。
ともすると堆肥や消毒などにばかり気をとられがちですが、実は「根と微生物との関係」ほど作物の出来不出来を左右するものはありません。
本稿は、健康な作物を栽培するには、根と微生物の関係がいかに大切であるかを述べています。
安全・安心・美味の作物を栽培したい方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
1. 有機堆肥なのになぜ土壌病害が?
昭和40年頃、「堆肥無用論」が流行しました。「堆肥の肥料効果は化学肥料で置き換えられる。土の構造をよくする効果は、耕運機や深耕でなんとかなる。ムリして堆肥を入れる必要なし」という理論です。
ところが、化学肥料に頼っていた田畑に病害が多発。再び有機物肥料が見直されることとなり、高価な有機質肥料が売れ出しました。
だが今度は、「有機堆肥を入れたのに土壌病害が発生した」という問題が発生したのです。有機堆肥をたっぷり施用したのになぜ土壌病害が発生したのでしょう?
2. 良い有機物でなければ
有機物というもの、実は、土の微生物のエサになるものです。そのため、微生物相の形成に大きな影響をあたえています。問題は、その有機物が土壌にプラスに作用するのかどうかです。つまり、根にとって有効な有機物(肥料や土壌改良剤)の利用が大事だということです。
味噌やドブロクづくりを考えてみましょう。素材の選び方、仕込む時期、ねかせる場所、食べ頃、飲み頃、なかなか難しいものです。相手(微生物)も生きもの、微妙なかけひきが必要となります。
田畑も同じです。大きな酒樽、味噌樽に見立てればわかりやすいでしょう。ただ単に有機堆肥を施用するだけでは健康な土壌は生まれないということです。
3. 根のまわりの微生物たち
根の表面には多くの微生物が住んでいます。根というものは、土の養水分を吸収するだけでなく、光合成産物など体内の栄養豊富な成分をつくり、これを根から分泌しているのです。
そのため、その分泌物をもとめて、さまざまな微生物たちが根の表面集まってきます(根圏微生物という)。
根の活力や作物の健全な生育は、どのような「根圏微生物」が住みついているかにかかっているのです。
4. 根の分泌物の量は膨大
普通の作物は一作で10アール当り300〜400キロもの光合成産物をつくります。その10%以上が根から分泌されていますから、実に40キロにも及びます。しかも高栄養の有機物ですから微生物に大きな影響をあたえているのです。
その根からの分泌物の内容は、炭水化物、アミノ酸、有機酸、酵素類、カビや細菌やセンチュウなどの生育を促進したり、逆に阻害したりする物質など多種多様であることがわかっています。
5. 根に住む微生物の働き
岩場のほとんど土のないところにも植物は生きています。いったいどのようにして生き抜いているのでしょう? 不思議ですね。だが、根の働きの秘密さえ知っていれば別に驚くことではありません。
根は、根自身から有機酸などを分泌して、岩石に影響をあたえ、岩石に含まれている養分を溶かして吸収しているのです。ホントに根とはすごい能力の持ち主なのです。
つまり、根の分泌物とは、「植物がその地で生きていくのに必要な養分を得るための、植物が行う土への働きかけ」ということになります。その根と土とのやりとりを仲立ちし、根の養分吸収や活力維持の手助けをしているのが根の回りの微生物たちということになるわけです。
6. 微生物は、根の養分吸収を助ける
根についた菌(菌根菌という)は、根の内部に菌糸を伸ばし根から養分を貰っています。一方、根の外に伸びた菌糸は、土の養分を吸収し逆に根に送っています。また、菌糸は7〜10cmにも伸びていきます。そのおかげで作物は、根が届ないところにある養分も、菌糸を通して吸収できるというわけです。
根の中に菌糸が入り込まない微生物の場合には、電気を利用して根に養分を送り込みます。微生物はマイナスなので、カリや石灰などプラスの電気をもった養分をひきつけ、根の近くに運んでくるのです。
微生物は、根の分泌物をエサにしながら、自らは土の養分を根に供給しています。つまり、根と微生物は「もちつもたれつの関係」にあるといえるでしょう。
7. 微生物は、根の活力を高める
菌根菌など多種類の根圏微生物が住みついた根は、土壌病害にほとんどかかりません。有益な菌が根の回りを取り囲み、病原菌が入り込めない状態にしてしまうからです。また、たとえ入り込んだとしても勢力を伸ばすことはできません。
病原菌は、養分が豊富な根の周囲が大好きです。根の近くにくると増殖しようとします。だが有益な根圏微生物に取り囲まれているため封じ込めにあってしまうのです。
8. 有害な菌から根を守る
菌根菌など多種類の根圏微生物が住みついた根は、土壌病害にほとんどかかりません。有益な菌が根の回りを取り囲み、病原菌が入り込めない状態にしてしまうからです。また、たとえ入り込んだとしても勢力を伸ばすことはできません。
病原菌は、養分が豊富な根の周囲が大好きです。根の近くにくると増殖しようとします。だが有益な根圏微生物に取り囲まれているため封じ込めにあってしまうのです。
9. 根は固有の微生物相を根圏につくる
根圏微生物相は、根の分泌物と根が届かない非根圏の微生物によって左右されます。そこで、微生物のエサとしての有機堆肥を施用すると、非根圏の微生物に大きな影響をあたえることになり、その結果、間接的に根圏微生物相の生成につながってくるというわけです。
それでは、ついでに非根圏と根圏について説明しておきましょう。
◇非根圏〜施用された有機物や小動物、微生物の分泌物や遺体で形成されている。養分の種類は多いが、根圏のように根からの分泌物がないため、量は根圏にくらべ少ない。つまり、微生物の種類は多いが、量が少ないため活性が低くなっている。
◇根 圏〜根の分泌物があるので養分が多く、量が多い。だが、種類は少なくて単純。つまり特定の微生物が高い活性をもっている状態が根圏の特徴。
すなわち、非根圏の多様な微生物の中の一部(その作物の分泌物を好む菌)の菌が根圏に寄ってきて繁殖し、根圏微生物相を形成します。言い換えれば、根はそれぞれ自分の好きな微生物相を根圏につくろうとする性格をもっているともいえるでしょう。
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